牛島和彦さん
私は、野球絡みで泣いた事が一度だけあります。
応援していたチームが優勝を決めた瞬間は涙が出そうな程嬉しかったけれど、実際泣きはしませんでした。唯一泣いてしまった時というのは残念ながら嬉し涙ではありませんでした。
それは1986年のクリスマスの事です。あの時は新聞を握りしめて泣いたっけ……。
当時、落合選手(現中日監督・当時ロッテ在籍)の移籍問題が世間を騒がせていました。私はてっきり巨人が獲得すると思っていました。しかし、急に「移籍先は中日説」が浮上してしまったのです。まさに「寝耳に水」という感じ。そして事もあろうに、トレード相手は牛島投手だったのです!!
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私は小学生の頃から高校野球が大好きでした。そんな私が最初に好きになった野球選手が浪商高校の牛島投手です。
高校で牛島投手とバッテリーを組んでいたのは香川伸行選手。「ドカベン」の愛称で親しまれていました。当時『ドカベン』という漫画のタイトルは知っていましたが、読んだ事はなかったので、私は香川選手がドカベンそのものなのだと勘違いしていました。「漫画のキャラクターが実在するのか、すごいなぁ」なんていう興味から浪商の試合をチェックするようになったのです。実際、漫画のドカベン・山田太郎と香川選手との共通点は体型と「捕手で強打者」という事位だけだったんですけどね(^^;)。
当時の香川選手は確かに凄かった。パワー溢れるバッティングで長打を連発していました。しかし、それ以上に私の心を奪ったのが牛島投手だったのです。
プロ入り後の牛島投手にはあまり速球のイメージはないかも知れませんが、高校時代は高校生離れした速い球を投げていましたよ。そしてバッティングも良かった。香川選手の前後(5番だったか?)で、ホームランも打ってました。まさに投打の中心。体は細かったけれど、大黒柱という感じでした。すごく、カッコ良かった。
それ迄高校野球にしか興味が無かった私ですが、彼が中日入りしたのをきっかけに、プロ野球ファン、そして中日ファンになりました。
プロ入り後の牛島投手は高卒にも関わらず、即戦力。1年目から1軍入りし、3年目(1982年)にはストッパーとなりました。
1982年の牛島投手の活躍は素晴らしかった。勝ち試合の殆どで投げていたようなイメージがあります(あくまでイメージですが)。牛島さんが出てくると負ける気はしませんでしたね。苦しい所で三振を取ってくれるんです。バッターは低い球を面白いように空振りしていました。「なんで、あんなボール球を」と思うんですけど、変化が大きかったのでしょう。ウィニング・ショットはほぼフォーク。素人にだって「ここでフォークだよ」とわかるのに、強打者達が為す術なくやられていました。
そんな牛島投手だから、使いたくなる気持ちはよくわかるけれど、使い過ぎだった感は否めません。あの大魔神・佐々木投手は、あんな立派な体をしていたのに、「最終回の1イニングのみ」という感じで意外と大事に使われていたんじゃないですか? しかし、牛島さんは、あんな細い体なのに、この年は2イニング以上投げる事も少なくなかったのです。同点でも出て来てたよ。そういう時代だったんでしょうね。そのせいか、疲労性の腰痛・肘痛に悩まされる事になりました。1ヶ月戦線離脱しました。完治しないうちに再び一軍に呼び戻され、鎮痛剤を飲みながらの登板の日が続いたといいます。しかし、そんな状態の悪さは微塵にも感じさせない素晴らしいピッチングでした。そして見事優勝。あれは、本当に嬉しかったなぁ。
この年の牛島投手の成績は7勝4敗17セーブ、11引き分け、防御率1.40でした。11引き分けというのはシーズンタイ記録だそうです。「抑えのエースが引き分けの時に出て行かなくてもねぇ」という気がしないでもありませんが、この年の中日は引き分けが多かったおかげで優勝出来たらしい。勝ち星では巨人に次いでの2位だったそうですから。
この年は、星野仙一さんの現役最後の年でもありました。星野さんは牛島さんを見ながら、テレビカメラに向かってこう叫んだそうです。
「優勝したのは、こいつのおかげだ!!たいした奴だよ、こいつは!!」
「牛島!!ありがとう!!」
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そんな中日優勝の立役者・功労者を放出するなんて!!
まぁ、今なら大して驚きもしないと思うのですが、まだプロ野球のしくみをよく知らなかった私にとっては大ショックでした。しかもこのトレード、1対4でした。落合選手1人に牛島・上川・平沼・桑田の4選手。私は上川選手も好きだった。平沼選手も好きだったよ(桑田選手はよく知らなかった)。「そんな選手達を放出してまで落合選手が欲しいか? 流れる血には目をくれないの?」と疑問を持ちました。
この時、中日の新監督は星野さんに決まっていました。星野さんって牛島さんをかわいがっていたんじゃないんですか? 牛島さんも、星野さんの為に一肌脱ごうと思っていたんじゃないだろうか? それなのに……。牛島さんが中日からいなくなる事も悲しかったけれど、牛島さんの気持ちを考えると胸が痛みました。裏切られたような気持ちになっていないだろうか……? その時は、ひどい球団だと思いました。それと前後するように田野倉選手や宇野選手らもロッテへ行ってしまったので、「中日はもはや中日ではない」と思ってしまいました。ロッテが中日化していたけれど、かといってロッテ・ファンになる事もありませんでした。
というのも、牛島さんが移籍した86年には阿波野投手が近鉄に入団したのです。
縁あって東都大学野球で活躍する阿波野投手のピッチングを神宮球場で生で見た私はすっかり阿波野投手のファンになってしまい、そのまま近鉄ファンとなりました。「これからはパ・リーグだ!!」と思ったものの、阿波野投手と牛島投手は敵同士という事になってしまったのです。直接対決が無い事を祈っていましたが、なんと、あの10.19では牛島投手も登板しました。そして敗戦投手になっています。ありがとう(おい!!)。
その昔、『プロ野球を10倍楽しく見る方法』という本がありました(また復活しているみたい)。球界の裏話が色々書かれたベストセラー本です。そこには牛島さんがロッテに移る時に密約があったという話が載っていました。その密約とは、「いつか中日にコーチとして招び戻す」というものです。それ以来、私はいつ牛島さんが中日に戻るのかと、ずっと注目していました。しかし、引退後、10年経っても牛島さんが戻る事はありませんでした。「ある程度年を取らないとコーチにはなれないかもしれないしなぁ」なんて思ってはいたのですが、インターネットで検索すると様々な噂が見つかりました。
今迄牛島さんをコーチとして招聘しようという話はいくつかあったというのです。信憑性は定かではありませんが、「横浜の権藤監督に誘われた事があったが、中日と星野さんに義理立てして断り、その後星野さんに誘われたけれど、権藤さんの誘いを断った手前断らざるをえなかった」という話には「なるほど」と思っちゃった。
星野さんが阪神入りした時点で状況はかなり変わったかも知れませんね。そして、今回の意外とも思える横浜監督就任の話。TBSで解説していたという所が大きいのかも知れませんが、コーチ経験なしで、いきなり監督という事になりました。
「ロッテ時代の牛島投手」の話が少なくなってしまいましたが、ロッテ時代もきっちり仕事してます。1年目に最優秀救援投手賞を受賞しました。防御率も1.29という中日時代以上の好成績を残したのです。偉いぞっ!! どうだ、中日!!
それでも記憶に残るのはやはり傷だらけになりながらも優勝争いをした82年という事になってしまうのですが。
あ、中日の事を悪く書いているように見えたらごめんなさい。今は「活躍した選手でも放出する」なんて事は当たり前の事だと思っています。それが野球の世界。中日だけが悪いなんて全く思っていませんので、お許し下さい>ファンの方。
たまたま初めての経験だったので、すごくショックを受けたという事なんです。
牛島さんは結局中日に7年、ロッテに7年在籍して、現役を引退しました。
肘痛や腰痛の事は前述しましたが、なんと31歳の若さで五十肩と診断されたそうで(こんな本を執筆してます)、かなり苦しい選手生活を送っていたようです。体が細く、投手としては小柄である事だけでも大変なのに、さまざまなハンデを背負ってきました。それを克服すべく、すごく頭を使ってきたみたい。そういうものが監督業には生きるかも知れません。注目したいと思います。落合監督との因縁対決もちょっと気になりますね。要チェックや!!(『スラムダンク』の彦一風←あ、そうそう『スラムダンク』の作者・井上雄彦さんが最初に買った漫画は『ドカベン』だそうです!!)
※小学生時代は、漫画・アニメ共に見た事がなかった『ドカベン』ですが、その後アニメの再放送を見て、一時無茶苦茶はまりました。野球アニメでは一番好きです。ガラスのエース里中は牛島さんとちょっぴりシンクロしますね。ちなみに『ドカベン』の作者・水島新司さんの『ストッパー』という漫画のモデルは牛島さんだそうです。
※牛島さん、ゲーム(プロ野球スピリッツ2004)の解説もやっているらしいよ〜。ビックリ!!
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コメント
牛島が横浜の時期監督候補の最有力なんですねえ。昨日のニュースでも見ました。
YAGI節さんが書かれている通り、決して肉体的に恵まれている選手ではなかったですよね。しかし、そういうハンデを背負っていたからこそ色々と工夫を凝らしたり考えたりしながら現役生活を続けていたはずです。肉体的資質だけで野球をやってきた人より、そういう人の方が監督業には向いているような気がしますね。
牛島の解説も好きでした。監督としての手腕に期待ですね。正式に決まるといいですね。
投稿: さいもん | 2004.10.09 19:42
スポーツ新聞やインターネット上のニュースだけだと「どうだろう?」という感じがしますが、牛島さんのニュースは読売か朝日(どっちか忘れた)の6日の夕刊にも載ってました。もうほぼ決まりって感じですよね。
でも試合が残っている時点で漏れちゃうなんて、前任者にもファンにも失礼な感じはします……。
>肉体的資質だけで野球をやってきた人より、そういう人の方が監督業には向いているような気がしますね。
同感です。監督には頭を使ってほしいし。
ただし、長嶋さんは別。
監督向きじゃないような気がしないでもないけれど、超越しているというか。
北京五輪での采配を望みます。
投稿: YAGI節 | 2004.10.11 01:50
はじめまして。牛島監督への熱いコメントだったので、思わずトラックバックしてしまいました。(^_^;)
中日時代の牛島投手はホントにかっこよかったですよね!
ベイスターズの監督としてホント頑張ってほしいです。
投稿: haru | 2004.12.27 00:03
haruさん
コメント&トラックバックありがとうございました。
あはは、やっぱり熱いですよね、改めて読み返して照れてます(笑)。
好きだったんですねぇ、あの頃は(遠い目)。
で、haruさんのブログがこれまた素晴らしくて、野球ファンにはお勧めです。
小川容疑者(元ロッテ投手)の記事の所で触れましたが、まだご覧になってない方はぜひ、haruさんのコメントの名前の所をクリックしてみましょー♪
投稿: YAGI節 | 2004.12.29 00:47