女殺油地獄
前回、「今週2本歌舞伎を観た」と書きましたが、もう1本は歌舞伎座の六月大歌舞伎です。
もっとも、こちらは4演目をやったんで、「2本」とか書くとまた紛らわしい事になりますね
ただ、今回の私のお目当てはただ1つ。『女殺油地獄』でした。
『女殺油地獄』は昼の部ですが、全日完売。
なぜそんな事になっているかというと、
「片岡仁左衛門 一世一代にて相勤め申し候」
なーんて、謳われているからです。
「一世一代」を「いっせいいちだい」と読んでいたのは、私だけですか?(恥)
読み方といえば、「女殺」の読み方、NHKでは「おんなころし」と紹介していましたが、歌舞伎座のホームページでは「おんなごろし」となってました。どちらが正しいのでしょう?
「油地獄」は「あぶらのじごく」。つくづく凄いタイトルです。
このお芝居の主人公は23歳の不良青年。
歌舞伎では年配の人が若者の役をやる事は珍しくありません。
藤十郎さんは76歳でハタチそこそこの役をやってました。
一口に「若者の役」といっても、年を重ねてからの方が上手く出来る役もあれば、若い時にしか出来ない役もあるそうです。それは体力の問題だけではないみたい。肉体的にはもっとキツイ役はたくさんあるのだとか。ただ、仁左衛門さんにとっては、『女殺…』の与兵衛という役は、もうやれない(周りが認めても自分が許せない)役らしいです。
そもそも、十年程前にやった時、「もう、これが最後」と思ったそうです。
が、今年、「歌舞伎座さよなら公演」という事もあり、周囲の強い希望もあり、やる気になったのだとか。
『スタジオパークからこんにちは』で、
「嘘かホントか知らないけれど、アンケートがどうとか(皆が待ってるとか)言われて、ボクも阿呆ですからね、そう言われりゃ、もう一遍やろうかなと」
なーんて事を、照れ臭そうに謙遜しながらおっしゃる仁左衛門さん、とってもキュートで素敵でした。
だったら、「皆が熱いリクエストをすれば、今後もやってくれるのかな?」とも思いましたが、そんな空気を察したのか、「ホントにこれが最後です」と釘を刺されてました(^_^;)。
しかし、話自体は好きじゃないんですよね~(爆)。
台本を読む機会がありましたが、全然面白くないです。
現代劇と違って、歌舞伎の場合はそういうケースが多く(自分が古文が得意ではないせいもあるかも)、「脚本読んだだけではピンと来なかったけど、舞台は面白かった」なんて事もあります。しかし、これはあんまりなストーリー
仁左衛門さんじゃなかったら、「一世一代」とか言われてもまず観に行かないと思います。これは、無茶苦茶カッコいい役者さんが、その美しさで観客を魅了しないと成り立たない作品かも。与兵衛は悪魔みたいなもんですから。その欠点は、もう余程の美しさでもない限り、補えません。いや、どんなに美しくても「女殺」は許されませんけどっ!!
『スタジオパーク……』で昔の仁左衛門(孝夫)さんの写真が出ました。『わるいやつら』の写真。
う~ん、ハンサムだけど冷たそう。この映画は観たことないですが、『わるいやつら』っていう位だから、悪い役だったのでしょうね。悪の華みたいな? 与兵衛みたいな?
今の仁左衛門さんは、温和で、優しく、与兵衛とは正反対の人種に見えます。
今でも舞台ではとーってもカッコいい仁左衛門さん。
「老けた」という感じはしませんが、若者特有のあまりにも鋭く何かを切ってしまいそうな冷たい美しさは薄れているのかも?
でもでも、生で見た今の仁左衛門さんの殺人シーンには何とも言えない魅力があった……
「切る」といえば「(ボウイ)ナイフ」。
そう、私の愛するデヴィッド・ボウイも、若い頃は恐い位に尖って、冷ややかで宇宙人のようだったけれど、今は人間らしくなりました(笑)。
もしかしたら、歌舞伎ファンにとっての与兵衛は、ロック・ファンにとってのジギーのような存在なのかも!?
ま、私はボウイのジギーをもう一度観たいとは思わないし、仁左衛門さんの与兵衛も、もう観なくてもいいかな。
ただ、こうやって割り切れるのは、数十年前の仁左衛門さん、数十年前のボウイをリアルタイムで知らないからなのかもしれません。
当時の彼らを知っている人は、また違った感慨を持っているのでしょう。
私が生まれる前の仁左衛門さんの与兵衛を、タイムスリップして観てみたいなぁ。
ま、それは無理な話ですが、今の仁左衛門さんの与兵衛はテレビで観られます。NHKで放送してくれるそうです♪
仁左衛門さんは『スタジオパーク……』で「それ言うと、お客さんが(テレビで観ればいいやと)来なくなっちゃうから」って、おっしゃってましたが、完売ですから。
ただ、チケットWEB松竹で直前に買える事があります。しくみはよくわからないのですが、キャンセル分が出るのかな? 私も買えなかったので幕見にしようと思ったのですが、前日に買えました。
って、私は松竹のまわし者ではありません~。
与兵衛役、仁左衛門さん以外だったら、海老蔵さんあたり似合いそう。
昨年観た『伊勢音頭恋寝刃』の殺人鬼ぶりは何とも言えませんでしたから(^^;)。
仁左衛門さんそっくりの愛之助さんでも良いけれど、好青年って感じの愛之助さんが好きなんで、悪役ってあんまり観たくない~(笑)。
夜の部は松本金太郎くん(染五郎さんのお子さん)初舞台だそうで、金太郎くんにあてたお祝いの蘭の花がたくさん飾られていました。あんな小さなうちから、あんなに大勢の人から蘭の花を貰うとは、「やはり住む世界が違うなぁ」と変な所で感心してしまいました。
有名人の名前の入った花が多数ありましたが、それに混じって『六盛』の名が!!
やはり歌舞伎役者御用達なのですね~。
追記:WEBで見た仁左衛門さんのインタビューの中に、こんな言葉がありました。
「口から出任せを言っても与兵衛自身は嘘をついている気はないんです。その時の気分で心持ちがころころ変わっているだけ」
ちなみにボウイはこんな事を言ってました。
「ぼくという人間は、気が変りやすいのか、うそつきなのか、自分でもわからない。その中間なんだろう。はっきりとうそをついてるわけじゃない。しょっちゅう気が変るだけなんだ」(『デヴィッド・ボウイ・ストーリー』より)
ほぼ同じ~っ!!
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コメント
面白いですね〜、仁左衛門さんとボウイさんのインタビュー。
歌舞伎役者も江戸時代のロックスターと考えれば、大納得しちゃいますね〜(*´д`*)
投稿: ひむろまさき | 2009.06.14 20:34
ひむろまさきさん
これ、「こんな長文じゃ、最後まで読んでくれる人少ないだろうなぁ……」と思っていたのですが、追記まで読んで下さったのですね。ありがとうございます。
好きな物同士がリンクする事ってよくありますが、このインタビューにはウケちゃいました。
ボウイの数ある名言(?)の中でも、これは特に印象に残っていて、共感したお言葉なんです(笑)。
ホント、おっしゃる通り、江戸時代の歌舞伎役者ってロックスターみたいなものだったと思います!!
投稿: YAGI節 | 2009.06.14 23:30