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2011.12.11

MANSAI◎解体新書その拾九 言葉も楽譜もテープも万能じゃない

当ブログを定期的にご覧頂いている方にとってはお馴染みだと思いますが、念の為書いておくと、MANSAI◎解体新書とは……

「世田谷パブリックシアター芸術監督・野村萬斎が自ら企画・出演し、毎回多彩なゲストを迎え《トーク&パフォーマンス》を繰り広げます。現代芸術の世界を構成しているさまざまな分野、要素をパーツに分け解体しながら、それぞれの成り立ちと根拠をあらためて問い直すシリーズです」(世田谷パブリックシアターHPより)
だそうです。

友の会先行予約の抽選に落ちてしまった解体新書その拾九ですが、
オンラインチケット会員の先行に何とか引っかかり無事見に行く事が出来ました。

今回のテーマは、
『語り~ 語り物の系譜(リテラチュール オラル)~』。

前回と対になっているのかな?

というのは……
先日の狂言劇場その七のAプロのテーマが「舞」、Bプロのテーマが「語」だったんです。
そして、前回の解体新書のテーマは『大地~恩寵と重力の知覚~』でしたが、平たく言えば「舞」という感じでした。
つまり、解体新書拾八が狂言劇場でいうところのAプロ、拾九がBプロっぽかったなと思った次第です。

で、前回はバレエ『ボレロ』と、狂言『三番叟』の舞の比較でしたが、
今回は今井検校勉さんによる『那須与一』と、狂言『奈須与市語』の語りの比較でした。

「漢字が違うのは何故だろう」というような疑問が萬斎さんから出ましたが、昔の人は漢字にはあまりこだわらなかったそうです。音さえ合ってればOKみたいな感じ?
そういえば、「しんせんぐみ」も、漢字表記は「新組」「新組」どっちでも良いって事になってるからなぁ。もっとも三谷ファンの私は断固「新組」ですけど(笑)。
新選組といえば、新選組参謀伊東甲子太郎のお墓のある戒光寺に、那須与一のお墓があるのです!!

Ka2 Ka3

まずは武蔵野音楽大学教授の薦田(こもだ)治子さんから、「平家」についての説明がありました。
「平家物語」というと文学作品というイメージがありますが、もともとは書物に書かれた物ではないというようなお話。口で伝えられていたんですよね。
萬斎さんは「口承文学」と認識されていらっしゃるようでしたが、薦田さんは「音楽」と認識されていらっしゃるそうです。どう捉えるかは「検校の『那須与一』を聞いてご自身で判断して下さい」みたいな事をおっしゃっていたかな。
萬斎さんもまだ聴いた事はないそうで、「私も客席で聴かせていただきます」とおっしゃってました。
聴き終わっての感想は、皆さん「音楽」と感じた模様。
もっとも、ウィキペディアで検索すると、「語りもの音楽」と記されていました。語りであり、音楽でもあるって事ですか(笑)。
そういえば、検校はよく師匠に「歌うな、語れ」と注意されていたそうです。歌手からはクレームが付きそうですが、そのお師匠さんにとっては「歌う」という言葉は口先だけでやっているようなイメージだったようです。

書物の『平家物語』と区別する為に薦田さんは琵琶と共に展開される物の方は「平家」とおっしゃってました。ただ、そうすると「源氏と平家」の「平家」、つまり家を表しているみたいでそれはそれで紛らわしい。
WEBで検索してみると「平曲」と書いてある事もありますね。そっちの方がわかりやすいかも?

ちなみに、薩摩琵琶や筑前琵琶でも『平家物語』をテーマにした曲が作られているけれど、音楽的には全く別物なのだそうです。
そういえば、薩摩琵琶聴いた事ありますが、音も違った!!
忘れかけているので、今過去記事をチェックしてみたところ、薩摩琵琶の方が音が高かったみたいです。
今回は低音が美しく、まさに私のイメージしていた琵琶の音でした。
Gackt謙信が『風林火山』で弾いてた楽器の音っぽい(笑)。
で、Gacktさんは、あんまりメロディーとか奏でてなくて、ただボロンボロンとやってるだけだったので、「あ~、ギターは弾けても琵琶は初心者だからか」なーんて失礼な事を思ってしまったのですが、実は楽器の構造が近代の楽器とは異なるようで、高度な事が出来ないようなしくみになっているらしいです。そうだったのか。ごめんね、Gacktさん。
(謙信は検校から琵琶を習っていたという話をWEBで見つけました)

Kaitai薦田さんは、検校のお声を褒めていらしたのですが、私は肺活量とそのスタミナに驚いてしまいました。
オペラのように声を伸ばして肺活量をアピールするわけではないのですが、あれ絶対苦しいと思う。しかも伸ばす所が一ヶ所だけではなく、何度もある……というか、常時伸ばす? 実は私は一瞬だけ民謡を習っていた事があるんですが、『小諸馬子唄』という曲が難しくてイヤになり、もともと好きでもなかったのでとっとと辞めてしまったのですが、あれをちょっと連想してしまいました。いちいち伸ばすのが、とにかくしんどかったんだよな~。

さて、萬斎さんの『奈須与市語』は……
無茶苦茶良かったーーーーー!!
初めて観た時は、ほとんど言葉がわからず……まぁ、有名な話なので内容はわかっていて、「あー、今この辺やってんだろうなぁ」位はわかったのですが、他はさっぱりで、ちょっと凹みました。
その後、ビデオで字幕付きを観たのですが、「こんな事言ってたのか、これじゃ耳で聴いてるだけでわかるわけないや」と妙に納得したのでした。
その後、茂山千五郎さんの『那須語』も聴いたのですが、いや~、わからなかった

で、今回はもう、「わからなくても気にしない~」というノリで臨んでしまいました。
そういう気楽な気持で観たのが良かったのか、とにかく楽しくて……いや、「楽しい」というと語弊があるか、すごーく心引かれてしまったのでした。
っていうか、萬斎さんがカッコ良すぎ!!(爆)
初めて観た時の印象も「カッコ良い!!」だったんですが、「うう、わかんないよ……」というネガティブな気分無しで観ると、もう楽しくて嬉しくて。
声の出し方、動き、姿勢、全てがステキ過ぎて……見とれてしまいました。
こんなカッコいい演目は狂言にはそうそうないですね。基本的には喜劇ですから。
「カッコ良い指数」が圧倒的に高いのは、コレと『三番叟』と『越後聟』だと思う私でした。ミーハーですみません。

最後に恒例質疑応答がありましたが、一瞬すごーく険悪な雰囲気になってビックリ。
それは一人の男性の質問から始まりました。

声を聞いた時は、勝谷誠彦さんかと思った~。「お知り合い?」と思える程フランクだったし、声はよく似てたので。でも別人でした(^_^;)。
質問の内容は「知識人とか金融業って、どういう事?」みたいなものだったと思います。
途中薦田さんが平家琵琶の歴史を説明してくれていたのですが、そこで「知識人が聴いていた」というような説明があり、また「目の不自由な方が出来る職業が限られていて、その一つが金融業」みたいな説明もあったからで、それを踏まえての質問です。

最初私は質問の意味がわからず、「知識人って、具体的にはどういう人? 金融業って、具体的にはどんな感じ?」なーんていう意味の質問かと思ったのですが、そうではなく、どうやら「『知識人』という言葉も『金融業』という言葉もその時代には無かったのに、そんな言葉を使うとはどういう事だ」というお叱りに近いご意見だったようです。
「どう思うか、音大の先生でも芸術監督でもいいから答えてよ」みたいな口調
場内緊張します。
そこで、場を和まそうとしたのか検校が「国会みたい」と茶々(?)を入れます。
やー、結構口が重い印象だったのに、ここでそんな事をおっしゃるとは!!

薦田さんはまず謝り、その後「歴史に興味のない学生に、少しでもわかりやすく伝える為に、そういう言葉を使って説明している」というような事を、やんわりとおっしゃってました。「うーん、大人の対応」と感心する私。
それで質問者も納得したかと思いきや、「でも私の気持ちもわかって欲しい」みたいな事を言うのです。気持……? 謝っただけではおさまらない気持ですか? どうすれば、よろしいんですか? お詫びの気持に、次の公演のチケットでも差し上げたらいいんですか?……って、それじゃクレーマーか。
真面目に考えると、「間違った事を伝えて欲しくない」という正義感をわかってくれ……という事……かも?
が、そこで「あなたの話は聞きたくない!!」という野次が。ひゃ~。
「ますます国会みたいになってきた」と検校(笑)。

すると別の方がスッと質問の手を挙げ、マイクはそちらに向かいました。
その場の雰囲気を変える為なのか、あるいは元々そういうキャラなのか、ゆっくりした穏やかなぽわわ~んとした口調でビックリ。
薦田さんも検校もファンも、皆で会場の空気を和まそうと頑張っているように感じられて、ちょっとしみじみしてしまった私でした。

「萬斎さんは何のフォローもしないのか?」と思っていたら、他の質問の質疑応答も全て終わった最後にフォローらしき事をおっしゃってました。
そして、それを来年上演予定の『藪原検校』の宣伝に繋げてしまったのです。すごいな、萬斎さん(笑)。「質問者さんも観に来てね♪」と言わんばかりでした。

という感じで、一時はどうなるかと思いましたが、終わってみれば興味深いアクシデントでした。
質問者さんは教師をやっていらしたそうなんですが、「『大河ドラマは嘘ばっかりだから観るな』とか言うタイプの先生かもしれないなぁ」とふと思いました。
きっと、とても頭の良い方なんだろうなぁ。

萬斎さんもどちらかというと理論派で、検校にちょっぴり理屈っぽい質問をされていたのですが、「難しい質問するなぁ」と答えに困っている検校の姿が印象的でした。
検校は感性で演奏をしているといった感じ? そして、そんな検校を見て、何か思うところがあった……ように(私には)見えた萬斎さんでした。
「考えるより、感じろ」という言葉を思い出しました。

『解体新書』って、私にとって、普段馴染みのないジャンルの色々な人を観られて、とても興味深いイベントなのですが、萬斎さんにとっても、色々得る所のある貴重な機会なんじゃないかと勝手に想像しました。
違うタイプの人と出会う事によって、自分を見つめ直す事が出来そうな。ホント素晴らしい企画だと思います。これからもずっと続いて欲しいです♪

うーん、書きたい事、まだまだ山ほどあるのですが、キリがないのでこの辺でやめときます。

う、ここで終わるとタイトルにした言葉の意味(「言葉も楽譜もテープも万能じゃない」)が謎になってしまうかな?
この日、私が感じた事なんですが……「そんな事当たり前じゃん」って言われそうな事でもあるので、野暮な解説はやめときます。

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