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2010.10.14

堕落論

堕落論 (新潮文庫)  堕落論 (角川文庫)  堕落論 (集英社文庫)

以前、野村萬斎さんオススメの『堕落論』を読むとか書いておきながら、早いもので2ヶ月経ってしまいました。
この間、別の本2冊読んでるし、もう『堕落論』の話なんて無かった事みたいになってますが、実は読んでました。でも、読めませんでした。でも、読めました。

どういう事かというと……
図書館から借りて来て読み始めたんですが、あまり面白くなくてちっとも進まなかったんです。すみません、私の頭が悪いからだと思います。
そうこうしているうちに返却期限が来て、4割位未読のまま一旦返却したのでした。
しかし、「一度はきちんと読んでおくべき名作なんだろうなぁ」と思い直し、再度借りてみました。

最初借りたのは角川文庫版だったんですが、二度目に借りようと思ったら、貸出中だったので新潮文庫の物を借りてみました。
で、途中から読もうと思ったのですが……なんか違う。

なんと、会社によって中身が違ったのでした。
『堕落論』は「堕落論」というタイトルのエッセイを含むエッセイ集なんですが、出版社によって収録されているエッセイが結構違ったのです。

たとえば角川版に入っていない「FARCEについて」とか「文学のふるさと」は面白かったし、いかにも萬斎さんが好みそう。
もし最初に角川文庫のものをきちんと読んで返却していたら巡り会う事もなかったと思うと、なんだか不思議な感じです。
そういえば、空想書店に載っていた物は新潮社の物でした。

ところで、この「文学のふるさと」には狂言『鬼瓦』についてこんな風に書いてありました。

大名が太郎冠者を供につれて寺詣でを致します。突然大名が寺の屋根の鬼瓦を見て泣きだしてしまうので、太郎冠者がその次第を訊ねますと、あの鬼瓦はいかにも自分の女房に良く似ているので、見れば見るほど悲しい、と言って、ただ、泣くのです。
 まったく、ただ、これだけの話なのです。四六版の本で五、六行しかなくて、「狂言」の中でも最も短いものの一つでしょう。(略)この狂言を見てワッと笑ってすませるか、どうか、尤も、こんな尻切れトンボのような狂言を実際舞台でやれるかどうかは知りませんが、決して無邪気に笑うことはできないでしょう。
 この狂言にもモラル――或いはモラルに相応する笑いの意味の設定がありません。お寺詣でに来て鬼瓦を見て女房を思いだして泣きだす、という、なるほど確かに滑稽で、一応笑わざるを得ませんが、同時に、いきなり、突き放されずにもいられません。
  私は笑いながら、どうしても可笑しくなるじゃないか、いったい、どうすればいいのだ……という気持になり、鬼瓦を見て泣くというこの事実が、突き放されたあとの心の全てのものを攫いとって、平凡だの当然だのというものを跳躍した驚くべき厳しさで襲いかかってくることに、いわば観念の眼を閉じるような気持になるのでした。
『鬼瓦』が「モラルのない作品」「救いのない作品」の例として挙げられていました。 ただ単にモラルがないダメな作品という意味ではなく、「宝石のような冷たさ」「凄然たる静かな美しさ」があると評価しているのですが、ちょっと意外な解釈でビックリ。 大名が泣くのは、懐かしさのあまりだとばかり思っていたし、そんな解説を読んだ事もあります。 「鬼瓦にたとえるのはどうかと思うけれど、奥さんの事を懐かしがって泣くなんて、かわいいじゃん」みたいに暖かい物を感じてましたが、「宝石の冷たさ」? なんとなーく雲行きが違うような……?

ちなみに、同時に「救いのない作品」の例として挙げられていたのが『赤頭巾』なんですが、ここで紹介されている『赤頭巾』は「赤頭巾がオオカミに食べられておしまい」となっています。猟師がオオカミのお腹から赤頭巾を助けるなんていうくだりはありません。そういえば、「赤頭巾はホントはこわい話」みたいな事、一時期言われてたっけ。
『赤頭巾』の話が後にマイルドに変わったように、ひょっとして『鬼瓦』も今上演されている物と昔上演されている物と違うのだろうか……という疑問が沸いてきたのでした。
私が知ってる『鬼瓦』と坂口安吾が言っている『鬼瓦』が同じだとしたら、この印象の違いをどうしてくれよう(どうもしないけど)

という事で、新潮文庫版は、最後まできちんと読めました。
色々なテーマの色々なエッセイが載っていたので、面白い話もあれば、全く興味のない話もあり……といった感じで全体の感想は難しいです。
でも、角川版だけで挫折しなくて良かったです♪

ちなみに↑の「文学のふるさと」は著作権が切れているようで、ここで全文読めるようになっていました。

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