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2015.03.13

『命もいらず名もいらず』

リアルの生活の中で幕末好きな方と出会う事はあまりないのですが、最近山岡鉄舟好きの方と出会いました。

いや、知り合ってからは一年近く経つのですが、そんなステキな趣味をお持ちとは全く知らなかったんです。こちらが佐幕派だと知って打ち明けて(?)くれました。
そして、鉄舟について書かれた小説を教えて頂いたので、早速読んでみました。
『命もいらず名もいらず』、直木賞作家山本兼一さんの作品です。

命もいらず名もいらず_(上)幕末篇 命もいらず名もいらず_(下)明治篇

鉄舟については、浪士組の取締役をしていた事、江戸城無血開城に尽力した事、剣の腕が立つ事(ゲーム『維新の嵐 幕末志士伝』の中では全志士の中で二番目に強い設定となっていた!)、清水次郎長の人生を変えた(?)事……位しか知らなかったので、初めて知る事も多く興味深く読む事が出来ました。

一つの事件が佐幕派目線で見るのと倒幕派目線で見るのとでは全く違って見えるというのはよくある事ですが、同じ佐幕派でも鉄舟目線と新選組目線ではまた結構違いますね。

ああ、そういえば、
「(倒幕目線の)『龍馬伝』では新選組が悪く描かれても仕方ないけれど、(佐幕の)『八重の桜』でも悪く描かれるなんて~」と嘆いた事もあったっけ。新選組って特異な存在なのかもしれないなぁ。

まずは、当ブログの読書感想文恒例、「斎藤一がどのように描かれていたか」のご紹介ですが……
残念ながら全く出てきませんでした。

近藤勇はちょっぴり出てきました。
最初は浪士組上洛関連。

近藤のまわりには、腕の立ちそうな門弟たちがいた。
――よい道場主にちがいない。
近藤をとりまく一団は、ぎすぎすしたところがなく、好感がもてた。

なんて、書かれてました。おお、なかなかの好感触♪

近藤が宿割でミスをして芹沢鴨を怒らせてしまうエピソードは、大河ドラマ『新選組!』の中でも描かれていましたね。
火の粉がふりかかる中一歩も引かずに正座し続ける近藤がカッコ良かったのですが、この小説では近藤は謝るだけで、おいしい所は鉄舟が持って行った……
ま、ドラマはフィクションですからね。「実際は鉄舟が収めたのかもしれない」と納得は出来ます。

ちょっと気になったのは、新選組の清河八郎襲撃断念のエピソード。
小説では「その時たまたま清河の側に鉄舟がいたから襲撃を諦めた」という事になってました。
や、確かにそうかもしれないけれどっ!
鉄舟というよりも「鉄舟が持っていた御朱印状」だからっ!

「御朱印状に刃を向ける事は将軍に楯突くにも等しい」とか「御朱印状を血で汚すわけにはいかない」というのが、芹沢鴨の言い分。そして、そんな事に気づく芹沢の武士らしさに百姓出身の近藤がコンプレックスを持つというのが新選組ファンから見るとドラマチックで面白い所なのですが、小説では「その強さに皆が一目置く山岡」という風に描かれていて、ムズムズしてしまいました。
ま、まぁ、鉄舟が主人公だから、それでもいい。

問題は、甲陽鎮撫隊の戦いについてです。
「江戸城無血開城を目指して鉄舟が頑張っている最中に、脱走した近藤が勝手に勝沼で戦争をして鉄舟の足を引っ張っている」みたいな描かれ方をされていました。ぎゃーっ!!
鉄舟の誤解なんですけどね。
なんと、近藤さんが脱走兵呼ばわり(愕然)。
しかも勝手に戦ってるって!!

確かに、抗戦派の新選組隊士達は一部の人から見たら邪魔者だったかもしれない。
厄介払いの為に、甲府攻めを命じられたという説もあります。
でも、甲府に向かったのは幕命ですよね。
なのに、当時の一般幕臣の認識としては「脱走兵が勝手に甲州で暴れている」という物だったんでしょうか。切な過ぎる(泣)。

甲州のみならず、流山でも戦った事になってました。
流山では戦ってないよー。
戦う気は満々だったかもしれないけれど、実際は訓練を新政府軍に見咎められて、戦わずして近藤が投降。
「切腹する」という近藤を必死に説得して思い留まらせて投降させる土方歳三との別れのシーンは創作物によって表現の仕方が異なり、解釈も人それぞれではありますが、新選組ファンにとってはとても大切な所です。
土方の「近藤救出作戦」は失敗し近藤は斬首となってしまうわけですが、土方はひょっとしたら「あの時斬り結んでいれば」などと後悔したかもしれない。そんな事を思うと、一行で「近藤勇とその一派は、下総流山で官軍と戦っている」と記されているのを見て胸がちくちく痛むのでした。

「近藤さんの名誉の為に、誤解を解きたい」という思いがむくむくと頭をもたげました。
先述の山岡鉄舟好きの方にお伝えしたかった。
が、ブログには簡単に吐き出す事が出来るこの気持を、実際口にする事は難しい。
相手は鉄舟は好きでも、新選組には全く興味がなさそうです。
そして、こんな話は新選組ファン以外にとってはおそらくどうでもいい話。
言おうか言うまいか……葛藤していたのですが、その方が人の話を聴くのがとても上手いので、つい乗せられて(?)、甲陽鎮撫隊の話の言い訳をしてしまいました。

が、相手はこの小説を読んだのが一年以上前との事で、誤解する以前に、そもそも甲陽鎮撫隊の事なんて記憶になかった様子(がーん)。そして時間がなかった(仕事中でした)ので、いちいち説明する事は到底無理。
諦めて適当な所で切り上げましたが、なんだか後味悪かったです。
タチの悪いマニアだと思われたかも。そして、作家批判と取られてしまったような気が……

「言わなきゃ良かった」と後悔しました。
「山岡鉄舟が好き」と言われた時は、「きゃ、幕末好きの同志」と、とても嬉しかったのに。
趣味の話って難しいですね。
近藤さんの名誉よりも、その人と仲良くやって行く事の方が私にとっては大事だったのですが……なんて言ったら、近藤さんに怒られちゃうか。

それにしても……
『命もいらず名もいらず』というのはすごいタイトルですね。
「名もいらず」という所で、新選組ファンとしてはドキッとしてしまう。
近藤は百姓の出身という事で、どれだけ大変な思いをしてきたか。
そして、大河ドラマ『新選組!』では、土方が「俺がかっちゃんを大名にしてやる!」と張り切るわけです。

あのドラマが特殊なのかもしれませんが、近藤の名を上げる事が土方の最大のモチベーションとなっているように見えました。近藤を陽の当たる場所に押し上げたくて、近藤の名を上げる為に、自分は悪役を買って出るみたいな所がありました。
そんな土方がカッコ良くて、そして近藤には周囲にそんな事を思わせるような、人間的な魅力があった、そんな関係がとても好きだったのですが、「名もいらず」とか言われちゃうと、考えさせられます。
「名もいらず」といっていた鉄舟が出世し、名を上げようとしていた近藤が、切腹も許されずに罪人として斬首とは、世の中ままならぬものです。切ない……
どちらの価値観が正しいのかはわかりません。どちらも正しいような気がする私です。

ちなみに、小説では鉄舟の「名もいらず」という価値観を喚起したのが松平忠敏(上総介)となっていました。
度々大河ドラマの話で恐縮なのですが、『新選組!』での松平上総介といえば、「旗本が百姓に剣術を教わる、悪い冗談だ」という、あのドラマ史上最も新選組ファンの反感を買ったと思われる憎らしい発言をしたアイツ(失礼)。
上総介から「名など惜しんでなんとする?」なんて言葉が出ても、「その口がそんな言葉を言うかーっ!?」と叫びたくなってしまう私です。
決まりかけた講武所指南役の座を「百姓上がり」という理由で却下された時の近藤の落ちこみようは大変な物だったといいます

上総介の浪士組取締役辞退についても『新選組!』では責任を放棄して逃げ出してしまったように描かれていましたが、この小説では「だれかが責任を取らなければ、ことは収まらないと読んでいるらしい」と描かれているのでした。
「辞退=逃げ」なのか、責任を取ったという事なのか……?
ん~、確かにどちらにも取れる~。
どちらが、本当の上総介の姿に近いのかな?

という感じで、一部考えさせられる部分はありましたが、鉄舟の人生は波瀾万丈で、読み物としては面白かったです。
というわけで、作家批判をする気はないです(手遅れ?)。

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コメント

幕末志士の魅力は、小説やドラマで描かれる人間性でしょうか? 表現や解釈によって印象も変わり、思い入れも人それぞれ・・・

新選組の功罪はさておき、武士としての存在感は誰も否定できないハズ。

一言でまとめるつもりでは無いのですが・・・伝えるってムズカシイですね。

投稿: ぽぐぽぐ | 2015.03.18 00:38

ぽぐぽぐさん
私が新選組を好きになったきっかけは三谷幸喜さんです。
大河ドラマ『新選組!』は今迄生きてきた中で見たドラマの中で一番好きで、あの影響で新選組ファンになりました。
その後新選組本70冊位(フィクションとノンフィクション半々位)、漫画も入れれば百冊以上読みました。
史実本でも作者によって雰囲気は随分違いますね。
特に私のひいきの斎藤一は謎の多い人物なので、勝手に自分の好きなように解釈しちゃってます。

最初は新選組好きで、長州や薩摩は敵視してたのですが、今は幕末全体が好きになっちゃってます。もちろん、山岡鉄舟も好きですよ。

実は『新選組!』を見る迄は「新選組って、人斬ってばかりいる怖そうな集団」というイメージしかなく、その昔、弟が「沖田好き」と言った時に思いきり引きました(反省)。
なので、新選組が良いイメージを持たれなくても仕方ないとは思ってます(^^;)。
母親にも、「新選組ファンだなんて外で言わない方がいい」って忠告されていたのに~(笑)。

っていうか、何事もマニア過ぎると引かれるので、リアルでは気をつけてた筈なのに~(^^;;;;)

投稿: YAGI節 | 2015.03.19 22:53

実は「新選組!」はちゃんと見たことが無くて・・・
YAGI節さんが「今迄生きてきた中で~」なんて言うからには是非一度視聴しなければ!

数日前に日野宿本陣ウラの「ちばい」で御蕎麦食べてきました。(近藤勇由来の血梅は咲き終わってましたが・・・)
とても品の良いお店のおばあちゃんがお話好きで楽しかったです。

投稿: ぽぐぽぐ | 2015.03.21 17:06

ぽぐぽぐさん
わぁ、『ちばい』いいですね♪ まだ行った事がないです~。
まだ新しいですよね……と思ったら、もう開店してから4年以上経っていた……(ショック)。

来年の大河の脚本は三谷幸喜さんなので、それに合わせてBSやCSで『新選組!』の再放送やってくれないかと期待してます。
ジャニーズだと難しかったりするのかなぁ……?
来年は三谷マジックで真田ファンになっちゃってそうな気がします

投稿: YAGI節 | 2015.03.24 01:43

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